質問と回答

6.階層的自律コミュニケーション・システム(HACS)は三層構造ですか?

投稿日時: 07/14 中島 聡

 

 階層的自律コミュニケーション・システム」(HACS)の「階層」は、下位側から順に「心的システム」「社会システム」「マスメディアコミュニケーション・システム および インターネットによるコミュニケーション・システム」の三層構造をイメージして正解でしょうか。(※青文字は伝道師による訂正と追加)

 質問者 「トンボ大臣 」さん

回答

 階層的自律コミュニケーション・システム(HACS)の全体像を極めて大雑把に捉えることを目的としたならば、間違いではありません。しかしながら、階層そのものやその数はHACSが意図する本質ではありません。

 解説・説明

 まず、質問文の用語を訂正させていただきました。このルーム「Q&Aの部屋」の「5.人間以外の生物が行う…」で回答した通り、基礎情報学における用語は厳格に使用されています。メディアとコミュニケーションは異なる概念なので混在することはありません。メディアとコミュニケーションの関係は親密ではありますが、メディアがコミュニケーション・システムになることはありません。また、インターネットシステムという表現では、パケット、IPプロトコル、DNSなど工学的な内容を示すことになってしまいます。なお、マス・コミュニケーション・システムとインターネットによるコミュニケーション・システムの両者を「超-社会システム」と呼んでいます(現時点でのお話。今後新しいものが出てくる可能性があります。誰も未来を知りませんので、笑)。

 さて、ご質問の三分割はコミュニケーションの種類によって行われています。心的システムでは「自己表現コミュニケーション(思考)」、社会システムでは「ニクラス・ルーマンの機能的分化社会論的コミュニケーション」、超-社会システムでは「ルーマンのコミュニケーションを超えたコミュニケーション」となっています。念の為確認しておきますが「ニクラス・ルーマンの機能的分化社会論的コミュニケーション」とは、[真/偽]、[合法/違法]、[支払い能力有/無]などの二値コードによって分類されたコミュニケーションで、所謂「学問システム」、「法システム」、「経済システム」等で説明できるものです(真理、法、貨幣などのルーマン的成果メディアですね)。ということで階層的自律コミュニケーション・システムの全体像を極めて大雑把に見ると、下層より「心的システム」、「社会システム」、「超-社会システム」の3層として捉えることが可能です。

 ではあるのですが、これでは階層的自律コミュニケーション・システムの本質を捉えたことになりません。少し考えれば解ることですが、各社会システムには階層が有ります。会社は社会システムですが、課の上に部があり、その上には取締役会と階層があります。各社会システムにおける階層数は、その社会システム固有でしかもバラバラです。なので大雑把分類した「社会システム」の中にはさらなる階層が幾重にも、また複雑に重なっています。このことからも階層数や個々の階層を気にしても意味がありません(組織改変のコンサルタントには有意味かもしれませんが、基礎情報学の範疇ではありません)。階層的自律コミュニケーション・システムで重要なのは、階層やその数ではなく階層間関係です。もっと言えば、上位層と下位層の関係、つまり非対称な構造的カップリングこそが重要なポイントなのです。

 ちょっとだけ説明すると、一般的なオートポイエティック・システム論では階層は存在せず、各システムはフラットな関係をしています。また、オートポイエティック・システムは閉鎖系システムなので相互に関係を持つことはできません(例外的に1対1は可)。これを心的システムに当てはめると、各心的システム同士が関係を持つことができないので、あらゆる(擬似的も含む)意味伝達が不可能になってしまいます(限定的な1対1での関係は可能かもしれないが多数間では無理)。そこで、システムに階層性を持たせ、下位層における個々のシステム同士の関係を上位層を通じて説明したのが階層的自律コミュニケーション・システムなのです。つまり、「心的システムは上位層の社会システムと非対称な構造的カップリングをすることにより、上位層である社会システムを通じて擬似的な意味内容の伝達を行う」、これこそが階層的自律コミュニケーション・システムというモデルの極めて重要で肝心なポイントなのです。このように上位層と下位層の関係を明確にすることで、各社会システム内における階層も説明することができます。そして、この上下層の関係を順次繰り返せば、最終的に全体像(らしきもの)に辿り着きます。なので、社会の全体像を下層より「心的システム」、「社会システム」、「超-社会システム」の3層と捉えられる、というのは階層的自律コミュニケーション・システムの帰結に過ぎません。結果は確かに重要ですが、そこに至る過程はもっと重要ですね。